聖歌集のクリスマス関連ページは、降臨節+降誕節あわせて実に57曲。旧・古今聖歌集が47曲だったのと比べても10曲多いのですが、かなり整理されていて、上手く組み合わせればクリスマス・ページェントが幾つも出来ます。全体的にバランスが良く、綿密な改訂作業の様子が伺えます。私自身があちこちの聖公会の教会で耳にした「あのクリスマス・ソングが古今聖歌集に入ってないのは残念だな」という信徒の声は大方、新しい聖歌集では実現しているように思いました。


 そんな中で私が(個人的に)大いに喜んだのは、この“ガブリエルのメッセージ”の名で知られる『み使い来たり告げん』です。「古今聖歌集改訂試用版」で既に発表済ですが、実はこのスペイン・バスク地方のキャロルには一般的に広まっている日本語歌詞がなかった。Elpisでは1997年以来、クリスマス・コンサートでは一度も欠かさずに演奏してきたナンバーで、コンサート中盤のハイライトなのですが、最初のうちは英語で歌っていました。しかしこの英語歌詞、意外とキチンと発音して歌うのが難しい。Elpisでは「ディン・ドン!(Ding Dong! Merrily on High)」(日本語歌詞はあるものの、旋律とのノリが悪い)、「聖母マリアのみどり子(Mary's Boy Child)」、「何故にイエスは(I Wonder as I Wander)」と並んで、「ガブリエルのメッセージ」はボーカリスト泣かせの曲でした。改訂作業で、これらの日本語訳詞が出来ないかなと期待してたのですが、試用版発表前に「ガブリエル・・・」と「聖母マリアのみどり子」の訳詞サンプルについて、アドバイスを求められたので、こいつぁ〜ラッキー!と思いました。「ガブリエル・・・」は文句ナシの訳詞で、以来Elpisでは日本語で歌うようになりました。勿論、聖歌集に掲載されているものと同じです。残念ですが「聖母マリア・・・」は思いっきりダメと言ってしまったばかりに、聖歌集には載ってません?!


 クリスマス物語の最初の大事件である大天使ガブリエル(福音書にはガブリエルであるとは書いてないが)の、マリヤへの受胎告知を歌った、このクリスマス・キャロルを知ったのもかなり遅くて、チャリティー・アルバム『クリスマス・エイド』で英国のスティングが歌っていたのを聞いて初めて知りました。当時はスティングが古いキャロルを歌うのにはビックリしましたが、今や英国ルネッサンス期のジョン・ダウランドの曲集『ラビリンス(Songs from the Labyrinth)』を出している位ですから、本人にとっては違和感のない行動だったんですね。他にはスウィングル・シンガーズの『ジングルベル&ホワイトクリスマス(The Story of Christmas)』でアカペラ・アレンジ版を聞いて楽しんでました。

 

 で、このメロディーのカッコ良さにノックアウトされてしまい、これをロックにしてやろう!と考えたのが1994年。それから2年後の1996年のクリスマス・アルバム・シリーズ『ヤァ!クリスマス第4集』で実際の形にしました。それを更にアレンジして、パワーアップさせたものが、Elpisがコンサートで演奏しているバージョンになっています。ちなみに、Elpisの多岐に渡るレパートリーの中で、最も強力に“プログレ”しているナンバーです・・・なんだ、結局プログレにしちゃってんじゃん・・・なんてね。

「コヴェントリーキャロルによるプレリュード〜ガブリエルのメッセージ」(抜粋)(Album「Xmas Concert Tour 2001」より)(演奏:Elpis)

 

 『み使い来たり告げん』は“スペイン古謡”になるのかもしれませんが、さながら変拍子のようなリズム感があります。聖歌集の譜面には拍子記号はありませんが、それを正確に記譜すると、一目見ただけでため息が出て、ブっ飛びます・・・拍子を記すと下のようになります。

[ 3+4, 3+4, 4+4, 4, 4+4 ]

(数字は1小節当たりの拍数、カンマはブレスのポイント、プラス字はブレスするまでの拍数を繋ぐもの)

 

 つまり最初の2フレーズは7拍子・・・プログレじゃん!!・・とか。

 

 古謡の多く、特に“歌モノ”は、一定の拍子(4/4とか)という概念はさして重要ではありませんでした。何故なら、歌は拍子に沿って歌うのではなく、言葉の韻律に沿った“フレーズ”で歌うものだからです。現代の拍子絶対主義的な音楽観(リズムが音楽全体を支配するかのような観点で楽を奏すること)が幅を利かせている中、こうした古謡のスタイルが訴えかけてくる“歌の音楽”を躊躇なく受容することは、歌うという点からすると大変重要な意味があります。歌う行為の基本姿勢というべきか。

 

 何故なら日本のわらべうた、例えば手鞠歌の「あんたがたどこさ」ですら、ポピュラー的に4拍子を基準にとらえた場合、1コーラスが [ 4, 2, 3, 3, 4, 2, 4, 4, 4, 4, 2, 2, 2, 4, 3, 1 ] という、17小節間で頻繁に拍子が変わる歌であるにも関わらず、誰もが容易に歌い、遊ぶことが出来ます※注: 実際の遊びでは違います。最初は全編を1拍子でとらえ、手鞠のみで遊ぶ。上手にできるようになると2拍子でとらえ、手鞠に足をくぐらせたりする。更に上達すると拍子を自由に扱ってアクロバティックな芸当に至る)。決して“プログレ”じゃありませんよね。故に、歌というモノは“フレーズ”、即ち横の繋がりで覚えるものだと理解できるでしょう? 『み使い来たり告げん』も同様、フレーズでとらえて歌うことで、礼拝での聖歌そのものの歌い方、捉え方を根底から見直すにはもってこいの逸材です。だってチョォォォーカッコいい、名曲だもの。アドベントに、これは歌わない手はないぞ!

 

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