初演:
 2000年3月13日 日本キリスト教協議会(NCC) 第34回総会(於・在日大韓基督教会東京教会)

 

 

 作曲ヒストリー

 日本キリスト教協議会(NCC)のアニバーサリー・アンセム。発案・原案はNCCの執行部の一員であった日本聖公会・西原廉太司祭で、それを宮崎 光司祭が詩に著し、私が曲を付けました。初演はElpisが行い、その後ずっと同バンドのレパートリーとして演奏しています。

 

 

 楽曲スタイル

 この当時、宮崎 光司祭の詩の作風としてChorus(Refrain)+Verseの循環形式が多くみられますが(第172番「あのときのように」も同形式)、この曲もそうです。教会音楽ではよく用いられる“ヴァース&レスポンス”の形ですが、ポピュラー的に言えばこの曲は歌詞が3番までありますので、[ サビ - Aメロ#1 - サビ - Aメロ#2 - サビ - Aメロ#3 - サビ ] となります。実はこの形式、音楽史的には大昔から存在し、世界各国(日本も含め)で主にスピリチュアルな歌で用いられてきました。近代では群衆歌、現代ではフォーク・ミュージックでよく用いられることになり、サビ(Chorus)を観衆がシュプレヒコール的に歌い、革命を叫んだり主張を訴える内容を持たせたAメロ(Verse)をソロ・シンガーが歌い、呼応するように演奏されます。ジョン・レノンの「Give Peace a Chance」が判りやすい良い例かな?わかんねーか。最近ではサッカーの試合で頻繁に歌われているクィーンの「We Will Rock You」かな・・・クィーンはハードロックだってば。


 つまりこの形は大勢で歌い、しかも気分を前向きにさせるには適しています。それを明確な意図を持って悪用したらコノヤロー!ですが。但し、その場合は同一歌詞・同一旋律を繰り返し歌うサビ(Chorus)を群衆が、毎回歌詞が変わるAメロ(Verse)部分をソリストが歌うことで得られます。全部を全員で歌ってしまうと効果が若干薄れるかと思われます・・・チと疲れてしまうからです!


 よってこの「主をもとめよ」も、そういった演奏の形がいぃなぁ〜と考えて曲を組み立てています。ソリストは教会の聖歌隊員が良いんではないでしょうか。もしくは聖歌隊と会衆全員でサビ(Chorus)を歌い、Aメロ(Verse)は聖歌隊だけで歌うというのも良いでしょう。


 ですが私が「良いでしょう」と言ったところで、「そうすべきです」などと言っているワケではありません。最も良い讃美の形は、地域々々の教会毎に違って良いと思います。例えば、聖歌「いつくしみふかき」を礼拝で用いる際、全ての教会が同じ位のテンポでは歌っていないのと同じです。テンポ設定というのは楽曲に対し、極めて重要な要素の1つですが、聖歌ではそれを敢えて記載していないのは、聖歌というものを自分たち(教会単位)に合わせてフレキシブルに捉えて良い、という意味だと私は考えます。

 

 

 演奏について

 そこで、敢えて至極普通の聖歌として捉え、全員で全て一気に歌ってしまうのがイイ!と感じられるならば当然OK。何故なら聖歌隊がない教会もあるでしょうし、ましてソリストなんかおらへんでぇ〜、という教会もありましょう。つまり私は、作者がオススメする演奏形態で賛美することが絶対厳守の法則のようなものではない、と力説します! 当然、作者の意図に忠実だと音響的に効果的でしょう。しかしコンサートでならOKですが、礼拝ではそれが常に優先されるべきことではないワケです。教会や集会、その土地、空気、面子などによって、演奏形態は変わってしかるべきなのが賛美なんですよ。だって賛美は、主への音楽の捧げ物なのですからね。自分たちが出来得る最良のものこそ、賛美の基本だと私は捉えています。


 でもそう言い切ったところで何も書かないと、読んだ甲斐もないでしょう? だから少しだけ書いときます。


 この曲はマーチです。奏楽のオルガンは、ソプラノ声部(メロディー)を歯切れ良く、メリハリをつけて勢いよく、バス声部は音をよく伸ばして、アルト/テナーの内声部は他の声部とは違って伸ばしすぎないように。全体的にインテンポ(同一テンポ)で構いませんが、コーラスとソロを分ける、とした場合はソロ部を若干テンポ・ルバート気味に、オラトリオのレチタティーヴォ風にしても良いでしょう…なんて礼拝でやろうとすると絶対に難しい! 実はこの曲、歯切れの良さなどヘッタクレもなく、ひたすらベタベタと弾いても結構“イケてる”と聞こえるように書きました。よって奏楽の演奏テクニックを駆使しなくても大丈夫なのです。但し、テンポをある程度は守るように気を付けて下さい。こういった曲では、ツッコミ気味のテンポ感になりがちです。

 

 

 作曲プロセス

 私がこれを作曲する時、NCC役員の年齢層をまず調べました。カトリックもプロテスタントも入り交じっており、平均年齢が高く、信仰歴も長い方々が大勢集まっている場だというので、ブラスバンドで演奏しても映える、真っ新なのに妙に懐かしい曲…というのをコンセプトにマーチ(March)を基本リズムとし、前向きなアンセムとなるように“勇壮な聖歌”を作ろうと考えました。ある意味では保守的な賛美であり、ヤングでハレルヤ・フィーバーの(なんだそりゃ?)「わかちあえる」(聖歌集第576番)等とは正反対に位置する曲といえます。


 又、基本的に歌詞がヴァース&レスポンスの形状だったため、実作業としては旋律を紡ぎ出す前に全体の構成を(漠然と)描く事からスタートしました。[サビ(Chorus)]は一聴して耳に馴染むキャッチーさを持つクライマックス、逆に[Aメロ(Verse)]はリフレインされるサビとサビとを橋渡しする役割を持たせなければならない。よって[サビ(Chorus)]の旋律線はダイナミックな動きをつけ、反対に[Aメロ(Verse)]はゆったりした動きをつける事でコントラストを明瞭にしようと考えました。旋律線はどちらも大きな“弧”を描き、そのカーブをなぞるように旋律を配置する・・・等。


 結果、[Aメロ(Verse)]の異なる2つのバージョン(タイプ)を作りましたが、無論、仕上がりの良い方を選びました。ボツになったバージョンは今聞くと、かなり笑えますよ。デモ演奏では私の愛する名歌手“マイスタージンガーZ”がロロロ〜で歌っているのも聞きモノか?(※ 2021年に音源を見直した際に、以下のデモ音源の歌はVOCALOIDに変更されました)

 

主をもとめよ(Type-A/不採用版)

 

 サビは1つの下降フレーズが基本のモチーフ(動機)です。それを上方に向けて重ねることで、前のフレーズの最終音と次のフレーズの開始音で大きく上に向かって跳躍するようにしました。次に現れる上行旋律は全て滑らかにに順次進行する上、全体としてフレーズ間の切れ目がかなり詰まっていてブレス・ポイントが短いのも特徴で、故に基本モチーフの勢いは猛烈に強く感じるようになっています。(譜面をクリックすると少し拡大できます)

 

 

 Aメロはサビと全く逆で、基本となるモチーフ(図では音列と記載。動機でもなんでもえーちゅぅの)を重ね合わせて、ゆったりと上昇して行きます。フレーズ同士にはキチンと間を持たせて、ゆったりしているのが特徴です。

 

 

 旋律が概ね完成したら、次はハーモナイズ(和声付け)です。決定的な[サビ]と[Aメロ]の印象の違いはここで作りました。簡単に申しますと、1小節あたりの和音の数が[サビ]の方が圧倒的に多いのです。[サビ]=4だとすれば、[Aメロ]=1です。4倍違います。[サビ]は音符1つに1コの和音、[Aメロ]は音符4つに1コの和音が着いていると考えて下さい。ハーモニーのチェンジ数が多くなればなるほど、スピード感が増します。スピードは運動エネルギーです。即ち、[サビ]は[Aメロ]に比べて高いエネルギー密度があるということになります。

 

 

 健康効果・効能?

 高いエネルギー密度を持った長調の音楽は、高揚感を煽ります。高揚するということは、心臓のパルスが強くなって血液の循環が良くなり、そこに“歌う”という有酸素運動が伴うと身体に活力が行き渡ります。気分が良くなり、元気になります。それを適度に休憩を挟みながら繰り返すことは非常に効果的なのだそうです。聖歌・讃美歌を歌うと元気になるのはそのためではないかと私は考えています。故に「主をもとめよ」では、全体で4回繰り返す[サビ]に、その効能を最大限に生かす工夫をしました。さあ、歌って元気になりましょう?!くれぐれも、無理して疲れすぎないように!

 

 

 フレキシビリティー/アレンジメント

 Elpisでは慣れ親しんだ聖歌をアナリーゼ(解析)し、全く違ったアレンジメントを施して演奏していますが、中にはどんなリズムを付加しても、大胆にアレンジメントしても、曲の印象が一向に崩れることのない名曲が多数有ります。そういった、名曲として歌い継がれる優れた聖歌には驚くべきフレキシビリティーが潜んでおり、如何なる“変容”をも受容します。本当にこれには驚きます。そういうフレキシブルな曲を自分でも作れないだろうかと、常に心がけているつもりですが・・・自分じゃよく判りません。


 さて、「主をもとめよ」はElpisが初演だったこともあって、最初のスコアはソロ・ボーカル、木管(flute+oboe)、パイプオルガン、エレキギター、ベース、各種オーケストラ・パーカッション、通常のドラム・セットという編成で書きました。オリジナルの調性はG-durですが、聖歌集ではF-durに下げています。又、演奏会用のアレンジメントのため、古今聖歌集収録の譜面には記載されていないイントロがあります(下記の譜例を参照。尚、F-durに移調済)

 

 

 

2000年3月13日・NCC総会にて「主をもとめよ」を初演するElpis

 

「主をもとめよ」[Live] 演奏:Elpis(2012年)

 

 Elpisでのこの聖歌の演奏は、こんな感じに構成しています。上にライヴ音源も置いておきましたので、聞きながらどうぞ。

 

1.イントロ: 譜例を元にマーチリズムに乗って、サビ主題の変奏旋律をFlute+Oboeのデュオで。
2.サビ1 - 1番: 譜面をオーケストラサウンドで。バス声部はウォーキングさせて。
3.サビ2 - 2番: エレキギター、ドラムスが入り、ロック味が加味されます。
4.サビ3 - 3番 - サビ4: Tuttiで壮大なハード・アンセムに変容します。
5.フィナーレ: イントロのリプライズ。ハード・アンセムのまま終了します。

 

 

 最後に余談です。アレンジメントではないのですが、2004年の6月、この聖歌を用いたオルガン独奏用プロセッション・ミュージック「主をもとめよの主題によるファンファーレ(Fanfare on theme of Amose)を書きました。ジェレマイア・クラークの「トランペット・ヴォランタリー」の代わりに、聖婚式での花嫁入場の際に奏でるとカッコ良くキマります。お試しあれ・・・と言いたいところですが譜面を載せると大変なので、せめてデモ演奏の音だけ聞いて下さい。下のリンクで聞くことができます。

 

「主を求めよ」の主題によるファンファーレ

 

 追記(2011年9月30日)

 気が変わって、上記の「主をもとめよの主題によるファンファーレ(Fanfare on theme of Amose)のオルガン譜をPDFにしたものをアップロードしておきます。2005年の初稿を少々手直しした2011年版ですが、まだまだ未解決で気になっている部分があるので、今後折りを見て改訂することにしました。決定稿は別の形でお披露目できるかもしれませんが、「すぐに古くなる2011年版」は配布してしまうことにしました。是非、使って下さい。

 



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