英国女王エリザベスII世の国葬で

 2022年9月19日、英国の女王エリザベスII世の国葬がウェストミンスター寺院で執り行われた際、この聖歌“The day thou gavest, Lord, is ended”が歌われました。この聖歌は自国が滅んでも神の治める世界を待ち望むという、英国国教会のスタンスを表すものです。かつてヴィクトリア女王が好んだ聖歌としても知られ、英国民は誰でも知っているポピュラーな聖歌みたいです。


 この度、それに触発されてほんの少しだけ演奏しました。インストゥルメンタルです。是非、聞いてください。


 女王エリザベスII世の葬儀で、ひぃひぃおばあちゃんのヴィクトリア女王の時代から愛されてきたこの聖歌が敢えて歌われた理由は、英国の地にエルサレムを建てるのではなく、主が与えられた仕事を今日もシッカリやり終えて、一日の終わりに神の国がやってくるのを祈る、その内容にあったのでしょう。


 この聖歌、聖公会の礼拝、特に晩祷(夕の礼拝)に参加していればいつかは必ず耳にします。私も幼い頃に礼拝で聞いて(歌って?)知っていました。歌詞はまるっきり覚えていませんでしたが、メロディーはよく覚えていましたよ。



 リック・ウェイクマンの「アン・ブーリン」

 この聖歌について私が敢えて語ることは、ほとんどありません。なのでこの聖歌との再会をお話したいと思います。きっと、私と同じ経験をしてらっしゃる方が沢山おられるんじゃないかと思って。


 “キーボードの魔術師”の異名をとった英国のロック・ミュージシャンで作曲家のリック・ウェイクマンのソロ・アルバム『ヘンリー八世の六人の妻』(1973)は、タイトルの通り、16世紀チューダー朝の英国王であり英国国教会の設立者であるヘンリー八世がその生涯で娶った6人の妻たち一人一人を音楽によって描き出す作品です。全6曲の中で最も劇的な1曲「アン・ブーリン」のコーダに、ウェイクマンはこの聖歌を挿入しています。当時、高校生だった私は、ここでこの聖歌に再会しました。


 映画『1000日のアン』でも描かれたヘンリー八世の2番目の妻アン・ブーリン妃は、結果的に国王ヘンリー八世にカトリックからの離脱を促して英国国教会を設立させた最重要人物です。男子の後継者を産めなかった王妃アラゴンのキャサリンを追い出して国王と略奪婚するものの、彼女もまた男子の後継者を産むことが叶わず、不倫疑惑をかけられた末、旦那様の命令で斬首処刑となった女性です。当時の記録からも民衆や周辺諸国からの人気はなかったみたいで、もっぱら悪女として描かれることが多いアン・ブーリン。しかしウェイクマンはその一人の女性の激動の人生の終焉を、かつてヴィクトリア女王が愛した“The day thou gavest, Lord, is ended”でシメる演出を施した…その意図は正に、彼女の人生が物語として絵になるだけではなく、清廉潔白とはほど遠い人間関係が露呈する現代英国王室のシンボルとしてのアン・ブーリンという格好の題材を使っての英国流のギャグをやった、と思うのです。しかしながら、その演出が絶妙に感動的なため、ウェイクマンの持ち前のユーモア・センスが的を射たとは到底思えない結果となりました。


 アルバム『ヘンリー八世の六人の妻』では「アン・ブーリン」は5曲目に置かれていますが、2009年5月1〜2日にハンプトン宮殿で行われたこの作品の演奏会では6曲中6曲目、つまり最後に演奏されました。開催場所が王室ゆかりのハンプトン・コートだけに、“The day thou gavest, Lord, is ended”でシメる演出をプッシュした形でしょうが、その構成は作品をより重厚なものにしました。



 夕の礼拝に参加しよう

  この聖歌は“夕の礼拝”で用います。なので日曜の主日礼拝で歌われる事は、ほぼありません。是非、機械をみつけて夕の礼拝に参加してみてください。いつかは歌う事になるでしょう。一日を優しくシメる、いい曲です。



 

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