C.ロセッティ+G.ホルスト="CRANHAM"

 キリスト教会に於いて、讃美歌・聖歌集の降臨節・降誕節のページは、実に充実しております。なんてったって、クリスマスはキリスト教の教祖たる主イエス・キリストのハッピー・バースデーですから。「Silent Night」、「Angels We Have Heard on High」、「O Come All Ye Faithful(Adeste Fideles)」、「Hark! The Herald Angels Sing」、「Joy To The World」(※注: 教派によって歌詞が違うことがあり、それに伴って曲名も異なりますので、英語題名を表記しました)・・・クリスマス・クラシックスのオンパレード!なんてったってスゴいページ、世紀の名曲ばっかり。知らない曲を探す方が難しい!


 この「こがらしさむく(In The Bleak Midwinter)」は詩人クリスティーナ・G・ロセッティの詩にグスタフ・T・ホルストが作曲しました。…そうです、英国近代クラシックに於ける世界的大ヒットとなったスーパー・シンフォニック・スコア「惑星(The Planets)」を書いたグスタフ・テオドール・ホルストの曲です。若い頃、親友のレイフ・ヴォーン=ウィリアムスに協力(応援?)して、失われた英国の古謡の復興を陰ながら推進した学校の先生であり作曲家です。ほら、例の「ジュピター」でお馴染みの「木星〜悦楽をもたらすもの」の中間部の有名な旋律もその作業で“発掘”されたであろう英国の古い聖歌ですし(ここは私の勘違いでした。取り消し線を入れておきます)、ホルストと英国古謡には強い繋がりがあります。又、弦楽合奏曲「セントポール組曲」は英国中世のブリティッシュ・ダンス・ビートを基調としたもので(第1曲「ジグ」なんてドリア調のダンサブルな曲だし。ドリア調は英国ロックの重要なエレメントで、クリームの「ホワイトルーム」もドリア調ですね)、その繋がりの深さを感じます。


 そんなホルストが書いたチューンネーム“クラナム(CRANHAM)”こと「こがらしさむく」は、英国古謡のみならずサンスクリットの文化にも傾倒し、近代管弦楽曲の金字塔『惑星』を書いた人だとは思えないほど、驚くほどシンプルで作為の全くない、なんじゃこりゃ?ってぐらいに素直な曲で、旋律は英国民謡だと言っても誰もわかんねーよ…ってほど。


 この聖歌を知ったのは20代初頭でしたか。ジェシー・ノーマンのクリスマス・アルバム『クリスマス・タイド』で歌われているのを聞いてからです。簡素極まりないにも関わらず魅力あるメロディー・・・こんな素朴で純粋なクリスマス曲をトンと聞いたことがないと驚いたもので、それがホルストの作だと知ってビックリ。歌詞は4番まであって、木枯らし吹く寒い冬の夜に産まれた赤ちゃんイエス様、厩で干し草の揺り籠に眠るイエス様を見守る羊飼いら(聖歌集では幼子にかしずく羊飼いの箇所は省かれています)、母マリヤが我が子に聞かせる子守歌と、淡々と当時のベツレヘムの宿屋街の厩での情景を歌った後、最後の4番で、この救い主である赤ちゃんに牧人であれば小羊を、識者ならば知恵を捧げるのだろうが、貧しい自分は自分の真心を捧げよう、と締めくくる。正にキリスト教が最も大切に説く“愛”の在り方、主への捧げ物の在り方を提示して終わります。特にクリスチャンなれば、ここで感涙を抑えることができませぬ。クリスマスの精神を端的に表した詞の内容。この精神性は、サンタクロースにまつわる数々のクリスマスソング(「赤鼻のトナカイ(Rudolph The Red-Norsed Reindeer)」等)や「リトル・ドラマー・ボーイ」などにも同様にみられるもので、故に私はこの聖歌が心から好きなりました。


 「古今聖歌集増補版'95」が出版された後、私は“古今聖歌集・5段階評価チャート”なるもののコピーを目にする機会を得ました。現在の「日本聖公会 聖歌集」(新) に至る聖歌集改訂作業の一段階として、「古今聖歌集」(旧) 収録の全曲を一度見直し、全国の教区でリサーチした結果(…ホントか?)、その後の改訂作業をスムーズに行うための目安として保存・要改訂・削除などをデータにした、まるで内申書か通信簿みたいな資料でした。削除対象となっていた聖歌は、ほとんどが全国的に歌われなくなったものばかりでしたが、その中にこの「こがらしさむく」が入っていました。いやぁ、ビックリしたのなんのって。スピリット・オブ・クリスマスであるこの聖歌の素晴らしさが理解できないとは! 改訂委員会はホントにアテにならんなー!とかなんとか。(聖歌第374番「こころのとびらをひらくと」の項目を参照)

 

 そこで私は1996年、年末の気晴らしで製作しては、クリスマスカードがわりに配っていたクリスマス・アルバム・シリーズ『ヤァ!クリスマス第4集』で、この聖歌を演奏しました。翌年1997年からはバンド=Elpisのクリスマス・コンサート・ツアーで何度もライヴ演奏するなど、勝手なキャンペーンを行いました。この聖歌をご存じの方にはその素晴らしさを思い出して頂きたかったし、知らない方々には是非知って欲しかったからです。何より、クリスマス礼拝で歌いたかったのです。なんてったってこの聖歌、歌うともっと心に響くのです!

日本聖公会聖歌集 第100番「こがらしさむく」 (歌:ミネストローネ)
Album 「ヤァ!クリスマス第4集《Gift for the One》」より

 

 Elpisが積極的に演奏したお陰…なんかじゃないでしょうけど、2006年発行の「日本聖公会 聖歌集」には無事に掲載されました。さぁ歌いましょう。感動を分かち合いましょう!

 

 余談ですが、2003年に発売された英国の老舗ロックバンド、ムーディー・ブルースのクリスマス・アルバム『ディセンバー(December)』の最後に、この聖歌が収録されています。常にジェントル且つダイナミックに歌う名ロック歌手ジャスティン・ヘイワードが、アレ?と思うほどに飾り気なく、妙に素っ気なく歌っているんですが、これを聞くと何故か『クリスマス・エイド』でスティーヴィー・ニックスが持ち前のダミ声&低音で素っ気なく歌った「きよしこのよる」を思い出すんですよ。スターらしい色気を出さず、喋り声と同じトーンで、正に“自分の声”を全面に出して歌うことで、等身大の自分を映し出す・・・子供の頃の思い出、信仰等々を込めて・・・。そう、彼らは信仰告白をしてるんです、歌で。神様の前で、スターはスターらしくある必要なんか一切ないものね。だからムーディー・ブルースの「こがらしさむく」を聞くと、あぁ、この聖歌は「きよしこのよる」と並ぶ名クリスマス聖歌だな、とか思うんですよ…実はあまりに素直な旋律だから、ソロで歌うのがやたら難しいってワケさ!

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