『Single8 - Original Motion Picture Soundtrack』- Liner Notes

目次

Single8 - Cover Art Designed by Peter Michi Miyazaki MONOLOGUES - Back Cover Art Designed by Peter Michi Miyazaki
作曲、編曲、全演奏、録音、プロデュース: 宮ア 道


Director

【映画『Single8』の音楽世界】
        小中和哉(「Single8」監督)

 宮アさんに映画音楽をお願いするのは、『VAMP』(2019)に続く2作目になります。現代の日本にヴァンパイアが生き続けているという特殊な世界観を映画の中に作る上で音楽はとても重要でした。打ち合わせで僕が映画『コヤニスカッティ』を例に挙げると宮アさんはすぐに理解してくれて、好きな映画の趣味もピッタリで、これで音楽は上手くいくと確信したことを覚えています。結果、宮アさんはこの映画の本質をよく理解して素晴らしい音楽を作ってくれました。

 映画を観終わった時の「読後感」を決めるのは、音楽の力が大きいと改めて思いました。

 今回の「Single8」でも映画音楽に求めたのは、「世界観の構築」です。1978年、『スター・ウォーズ』が日本で公開された夏、8ミリで特撮映画を作る高校生たちの話なので、まずはその時代の雰囲気を音楽で出してもらいたい。主人公たちの頭の中で鳴っていた音楽を作りたい。当時見て影響を受けた映画『スターウォーズ』や『未知との遭遇』のパロディ。当時繰り返し聞いていたグループサウンズの影響。劇中、8ミリ映画の映画音楽を発注する高校生バンドのサウンド。

 本作の主人公は高校時代の僕がモデルで、作中で作る8ミリ作品も実際に僕が作った8ミリ映画を再現したものなので、それらを宮アさんにも観てもらって参考にしてもらいました。宮アさんは年代的には僕より少し下ですが、8ミリ自主映画を経験した人なので、狙っている世界観を良く理解してくれました。

 この作品で主人公たちが作る8ミリ映画「タイム・リバース」は、僕が高校1年の時に映画研究部で作った『TURN POINT 10:40』(79)の再現です。この映画の音楽は友人のバンドがオリジナル曲を作ってくれていて、僕にとって初めて映画音楽を作ってもらえた最初の作品でした。

 自分の映画にオリジナルの音楽を付けてもらい、映画が「作品」として初めて姿を現すような感覚。その感動。かつて8ミリ映画作りで初めて経験したことですが、今回その再現をすることで、改めて僕は映画作りの中で一番好きな作業だと感じました。

 シナリオを書き、キャストが演じ、ライティングやカメラワークで映像を作り、編集で構成。そうして出来上がった映像でも、音楽の付け方でまるで印象が変わってきます。映画音楽はその場面を作者がどのような感情で見てもらいたいのか、それを観客に伝える重要な要素です。映画音楽は観客へダイレクトに届くメッセージなのです。

 今回の宮アさんの音楽は「僕が観客に伝えたい感情、感動」を120%伝えてくれています。映画を観ていない方でも音楽だけで充分に伝わるものがあると思います。どうぞごゆっくりとお楽しみください。

【思い出の共感】  宮ア 道

Single-8 Film

 私も高校時代に“シングル8”で映画製作していたんですよ。小学生の時からコマ撮りアニメを撮り始めて、中学の頃には「将来の夢は映画監督になること」と周囲に言いふらしてました。高校の学園祭での映画研究部の上映会とか、大学生などが催す自主上映会等によく行ってましたよ。日本で一番大きな自主映画のコンペティション「ぴあフィルムフェスティバル」(旧・オフシアターフィルムフェスティバル)は毎年注目していましたしね。そんな中で小中和哉監督の噂を聞いたんです、シングル8フィルムでマジカルなSFX映像を作る凄い人だと。

OCHIGUMA

 確か1983年でした。小中和哉監督の8mmSF大作『地球に落ちてきたくま』の上映会が池袋で行われたので観に行ったんです。驚きました、8mm映画なのに見事なスペースオペラでした。上映後にトークショーがあって、SFX映像の撮影方法を丁寧に解説して下さったんですが、聞いたこともない特別な装置や機材を買う資金力と、スタッフで特殊撮影装置そのものを工夫して作ってしまう技術力に感動しましたよ。ほら、私はまだ中学生でしたから次元の違う話だったんですよね。それに才能ある人の回りには、才能ある仲間が集まってくるんだと思いました。

 そうやってあちこちで刺激を受けながら、資金力は無いながら自分の映画製作のヒントにしました。けど私の性格上、監督として現場を仕切るよりポストプロダクションの作業の方が楽しいらしい…と気づいて、映画監督になる夢をやめて音楽に向かいました。それから巡り巡って35年後、2018年に小中監督と『VAMP』で一緒に映画製作をする機会に恵まれた時は、私が人生の1つの大きな輪を巡って35年前の出発点に戻ってきた、やっと一周廻ったんだ…と思いましたよ。だって小中監督は既に「ウルトラマン・ネクサス」等を監督してきた特撮ムービーの大ベテランなのに、初めてお会いした時には『地球に落ちてきたくま』や『いつでも夢を』(小中監督の高校時代のMV風ミュージカル作)…アマチュアだった頃の話題に花が咲いたんですから、同窓会みたいな感じで。

Director

 ただ実際の制作に入ると小中監督は驚くほど音感の良い方で、今、作ろうとしている映画に対して確固たる音楽イメージを持ってらっしゃるんです。だからまずは監督の脳内で響いているサウンド・イメージを掴まなくちゃならないんですよ、小中作品のフィルムスコアを作るという事は。そこから本当の意味での作曲がはじまるんです。『VAMP』の時は作曲家(私)がスクリーンの中に入り込んで役者と芝居をするセンスが作曲する上では必須でした。けれど『Single8』での音楽の立ち回りは常に監督の目線と同じでした。実はこの映画、監督ご自身の青春回顧録なんですよ。つまり監督自身が主人公なのですから、物語の結末は最初からネタバレしているようなものですよね。なので音楽が不安を煽ったりする必要はなく、スクリーンの中の青春群像を俯瞰するようにして、監督が伝えたい“思い出”を包み込んで居心地の良い空気感を作り、観客をそのイメージの中に誘い込む、そういう音楽の作り方をしました。私も8mm映画製作を経験していたので、そのセンスがわかってくれると考えて監督は私を指名してきたんじゃないかなぁ? 幸いなことにこの映画で“思い出の共感”はできたと思うんです。

Director

 私にとってはこのフィルムスコア、ギターで作曲したり、ビートの利いた音楽を作るチャンスを頂いて本当に嬉しかった。すごくやりたかったんです、長編映画で。“若さ”を表現するために初心者用のエレキギターに細い弦を張って、チューニングが狂うほど力いっぱい弾いたりしてね。楽しかったですよ。でも私は全部一人で演奏している身なので、せっかく弾いたものでも監督が気に入らなくてNGになるとガッカリしました。

 又、COVID-19のパンデミックの中で企画立案、撮影したこの映画、小中監督の製作会社“Bear Brothers”(旧・こぐま兄弟舎)の製作で、作りたいものを納得いくまで作るという環境を整えた上での《わがままな作品》です。だから私はゆっくりと時間を頂いて、監督と私自身の両方がOKするまで曲を作り込むことが出来ました。

 映画が完成した直後、このサウンドトラック盤も完成させていたんですよ。時間をかけて計算して作り込んだ映画音楽には、映画で使われた順番通りに並べるだけで、自ずと別のドラマが成立しているものなんです。『Single8』のサウンドトラックもそうでした。自分の予想以上に面白い音楽アルバムになりましたよ。皆さんも『Single8 - Original Motion Picture Soundtrack』を聞いて楽しんで頂けると嬉しいです。(2022年12月6日・談)



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