『ペーパーワールド』- Liner Notes

目次

Single8 - Cover Art Designed by Peter Michi Miyazaki Paper World - Back Cover Art Designed by Peter Michi Miyazaki
作曲、編曲、全演奏、録音、プロデュース: 宮ア 道


Director-Minoru Ohta

【セレンディピティによる小さな奇跡】
         太田 実(「ペーパーワールド」監督)

 映画「ペーパーワールド」は私・太田が主宰している演劇ユニット《初級教室》の、“演劇ムービー三部作”の第2弾として製作した長編(約70分)映画です。演劇映画らしくチェーホフの「かもめ」の登場人物ニーナだけに焦点(失恋に苦しむ)を当て、わたし的に再構成した作品です。最初に編集し終わったものを宮アさんに見せると「音楽むずかしい!」とつぶやかれ、私も少し動揺したのを覚えてます。

Paper World Cap2

 たぶん、得意の美しいメロディーを封印しなければならないからではないかと私は思ってました。しかし宮アさんは、軽々とその課題をこなしました。

 この映画、失恋をしたある女性の情念に近い妄想(漫画で描く)を、現実と交互に見せてゆくパラレルワールド映画なのです。人間の行動というより内面を、しかも情念からの葛藤を抱えた心を音にしてゆくという課題と作業です。

 メインテーマで主人公と心の複雑さを表し、そのバリエーションで各場面の細部を構成してゆくのですが、一場面だけ主人公から離れ、主人公の傷を癒やし、他人(隣人)が救いにやって来る場面があります。敵だと見ていた人物の慈悲が音楽になって溢れだします(Track10「パース」)。主人公を優しく包み込むような音なのです。ここはでは堰を切ったようにメロディーが溢れ出したように、音楽が無くてはならない素晴しいシーンとなりました。

Paper World Cap4

そしてもうひとつ特筆するシーンがあります。それはラスト主人公が、失恋の傷(情念)から放たれて、また自分の歩みを始めるシーン。心開放された主人公の歩みに合わせてエンドタイトルローリングまで音楽を付けてしまうのが通常ですが、私の演出は、1人ぼっちの主人公を延々と歩かせ、音楽を一旦フェードアウトしてその場に溢れている人の声などの雑音でしばらく聴かせるのです....宮アさんにそんな注文を出しました。

 主人公の彼女はニコリとせず只々と歩むのです。すると突然クラリネットが聴こえてきてキャメラは主人公の全身を捉えていたところから近づき顔を大写しして映画は終わります。このスーと入ってくるクラリネットが感涙ものなんです。開放された笑顔でない真顔に、クラリネットが「よく耐えました。またしっかり歩んでゆこうよ!人生は続くよ」と言いって励まし讃えてるように聞こえてくるのです。このクラリネットがあるため、笑顔でなくていいのです。一旦リアルな日常の雑音で埋め尽くされた時間で、次ぎにやって来る宮アさんの音楽(クラリネット)が、昇華してゆくのだと私は感じるのです。このTrack12「ペーパーワールド」は、映像と音楽が本当に融合したなと感じたシーンでした。

Paper World Cap3

 チェーホフの「愚痴りながらも、ままならない人生を生きてゆく」のモチーフの上に、私の大好きなセレンディピティ(偶然の産物)による小さな奇跡を練り込み、宮アさんの音楽と共に創作した傑作です!もう言ってしまおう、傑作!(笑)

【漫画、その虚構の世界】 宮ア 道

 2016年に完成した映画『ペーパーワールド』は演劇ユニット“初級教室(Seed-Class)”の2作目の自主製作長編映画。ユニットを率いる演出家・太田 実さんがチェーホフの小説「かもめ」をモチーフにシナリオを書き、自ら監督しました。映画の中で重要なキーとなるのが主人公が書く「マンガ」で、主人公は自らが書く虚構の世界と現実とが交錯していきます。音楽も登場人物に寄り添わず、ドラマを誘導することもなく、冷静に物語の進行を見つめていく形に。結果として沢山の短い曲が出来、それらを必要なシーンに充てる事になりました。

 それから5年後、コロナ禍で“StayHome”期間中だった2021年になって映画の音楽を一旦見直し、曲同士を組み合わせ、全体でひとつの「作品」となるよう再構成しました。映画では不採用になった曲も収録しています。映画のサウンドトラックでありながら、映画にインスパイアされて新たなイメージで構築したオリジナル・アルバムとなっています。

●福岡インデペンデント映画祭2006ノミネート
●DOKUSO映画館(配信)2022年8月9月、2ヶ月連続 視聴ランキング1位を獲得!



本編(全編)が気になる方はコチラ(有料です)

DOKUSO



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